日本酒のつくり方(製造工程)について

麹室で蒸米を広げている様子

※写真提供:山陽盃酒造

 

世界で最も複雑な製造工程を辿る神秘の酒・日本酒

日本の主食である米と水だけを使ってつくったお酒「日本酒」は、世界で最も複雑な製造工程を辿る酒、ともいわれ、他に例を見ない「並行複発酵」という造り方をします。アルコール発酵をするためには、糖分を必要とします。果実は放置しておけば、空気中の酵母が付着してアルコール発酵しますが、日本酒の原料である米には糖ではなくデンプンの形で含まれているので、一度糖化してから、アルコール発酵をしなければなりません。この2つの工程が同じ液中(タンクの中)でおこなわれるのは、世界中で「日本酒」だけです。そんな複雑な製造工程をいきなり深く知るのは難しいので、工程の様子を写真とあわせて大まかに見ていきましょう! 

 

日本酒づくりの工程

「どんな日本酒をつくるか」「どんな伝統や文化を残すか」という考え方の違いから、使用する道具や機械も違います。日本酒づくりの工程は、酒蔵によって少しずつ違う部分もありますが、大まかにはこのとおり。一例として見てください。

  1. 精米
  2. 洗米/浸漬(しんせき)
  3. 蒸米/放冷
  4. 麹(こうじ)造り
  5. 酒母造り
  6. もろみ(仕込み)
  7. 上槽(じょうそう)
  8. 濾過(ろか)
  9. 火入れ
  10.  貯蔵
  11. 火入れ/瓶詰め

精米

精米されて磨かれた酒米

玄米を、精米する工程です。米の磨き具合によって、味わいが変わります。あまり磨かなければ、日本酒の味わいに複雑さや雑味が出ます。たくさん磨けば、綺麗で軽快な味わいのお酒になりやすいのですが、より大量の米を使用することになり、原価も多くかかってきます。それに家で毎日食事と合わせて飲む気軽なお酒は、安価で味わいが複雑な方が嬉しかったりするので、一概に磨けば美味しい、というものでもありません。ほとんどの酒蔵は30%精米、50%精米、60%精米、70%精米・・・などさまざまなバリエーションのお酒をつくっています。

 

精米するとき、摩擦熱で米が割れやすくなります。この後の製麹の工程のために、できるだけ時間をかけ、丁寧に割ることなく精米するのが大切です。精米機は非常に高価で、大きさも大きく、置く場所を必要とするため、自社で保有するのではなく、地域で共同精米所をつくったり、外部の精米メーカーに委託することがほとんど。多くの酒蔵が外部委託している唯一の作業が「精米」です。

 

洗米/浸漬(しんせき)

洗米機で米を洗う様子

洗米機で米を洗う様子

「洗米」には2つの目的があります。1つめは、精米時に米の周りに残された糠を洗い流し、取り除くこと。2つ目は、後から適切な水分を米に吸収させることです。洗米前の白米水分を計り、10kgずつ小分けされた米を洗い、浸漬し、重量を量り、10kgからどれだけ増えたかで、「白米吸水率」を計算します。次の工程「蒸米(蒸きょう)」で必要な水分を米に適切に吸収させるため、0.1g単位でチェックして、慎重におこなっていきます。

 

蒸米(蒸きょう)/ 放冷

「甑」で蒸した米を掘り外に出すの様子

「甑」で蒸した米を掘り外に出すの様子

蒸した米を、適正な温度に冷ますため手で均等に広げる=放冷の様子
蒸した米を、適正な温度に冷ますため手で均等に広げる=放冷の様子

米を蒸す作業。食べる米のように炊くのではなく、蒸気を当てて蒸します。米に必要な水分を吸わせ蒸して、米のでんぷんをα化することで、次の「麹づくり」の作業をしやすくすることと、タンク内で米が溶けやすいようにすることができます。甑を使う方法と、ベルトコンベアを使った連続式蒸米機を使用する方法があります。甑を使う場合は、昔ながらの釜を下に置くスタイルと、ボイラーからの蒸気を当てるスタイルがあります。1970年代の日本酒がたくさん売れていた時期に設備投資した酒蔵は、大量生産を目指して連続式蒸米機を採用した所も多いですが、最近設備を新しくしようとする中小規模の酒蔵では、コンパクトで場所も取らず、品質重視の少量生産に適した甑を使うスタイルが多く採用されています。

 

麹づくり

「麹室」の中で、麹菌を種付けするために、適正な温度に冷ますため手で均等に広げる様子
「麹室」の中で、麹菌を種付けするために、適正な温度に冷ますため手で均等に広げる様子
「箱製麹」の様子。麹菌を振りかけ生育する中で発生する温度を下げ、湿度を除くため手入れする
「箱製麹」の様子。麹菌を振りかけ生育する中で発生する温度を下げ、湿度を除くため手入れする

「麹室(こうじむろ)」という衛生管理をより徹底して、区切られた部屋で48時間程度かけて麹米をつくる工程です。この作業を最も大切にする蔵が多く、場合によっては酒蔵の中でも限られた人(杜氏と麹の責任者だけ、など)しか入れない、という規則を決めているところも。

 

1日目:蒸して、放冷した米を「麹室」に引き込み、種麹をつける「種切り」という作業をして、まんべんなく米に菌がつき、米の内部まで菌糸を生やすように、「床もみ」という混ぜる作業をします。その後は乾燥を防ぐため、布で包み、菌の生育に適した温度を維持するよう観察して待ちます。

 

2日目:麹同時が熱を湿度を発して、粒がくっつきあっているので「切り返し」をして、バラバラにします。この時点で最初とは異なり、米のまわりにフワフワとした菌糸を肉眼でも観察することができます。「切り返し」したら、すぐに「盛り」作業。蓋、箱、床(とこ)、自動製麹機という4種類があります。また箱は、蔵によって「大箱」「中箱」など大きさが異なります。写真では「箱製麴」をおこなっています。温度と湿度管理しやすいように、箱に8kgずつ小分けして管理していきます。目標とする酒の味わいによって異なりますが、最高温度40~43℃を維持して、この後の工程に役立つ酵素をたくさん造るように心がけます。その後「仲仕事」「仕舞仕事」をして、工程により適正な温度を保持します。

 

3日目:麹を麹室から出す「出麹(でこうじ)」の作業をします。その後「枯らし」といって、表面を乾燥させ、不要な微生物や菌を防ぎ、より内部に麹菌の胞子をつけるようにします。

 

酒母(酛)づくり

酒母タンクに麹米を投入したばかりの様子
酒母タンクに麹米を投入したばかりの様子
他の工程と隔てた部屋に置かれる酒母タンク
他の工程と隔てた部屋に置かれる酒母タンク

「酒母(しゅぼ)」は、「酛(もと)」と呼ぶこともあります。大きなタンクでいきなり培養するのではなく、より確実に安定して、健全に酵母を大量に培養するための工程です。酒母はこの後の「醪」の工程と異なり、強烈な酸や苦味がある液体になる。まだデータ分析できない時代、五感を使い味見をして管理していた酒母責任者(酛屋もとや)は、強い酸によって歯が溶けていた、という話もよく耳にします。この工程を丁寧におこなうことでより健全な「醪」ができるため、「酒母室(しゅぼしつ)」といって独立した部屋で温度設定して、衛生状態を保ち、乾燥させて管理することが多いです。「酒母」の段階で、酵母を添加します。(酵母を添加しない方法もあります)普通速醸酛、中温速醸酛、高温糖化酛、生酛、山廃酛、菩提酛など、酒蔵の方向性やその酒の種類によって、酒母の作り方を変え、最も適したやり方を採用しています。

 

もろみ(仕込み)

掛米を投入しながら、均一に発行するよう櫂入れする様子
掛米を投入しながら、均一に発行するよう櫂入れする様子

「酒母」の次は、大きなタンクに「酒母」と蒸した米(掛米)と水を投入する作業「醪」の「仕込み」です。日本酒は、冒頭で述べた通り大変複雑な発酵経過をたどるお酒。醪のなかでは、「蒸米の糖化」と「酵母が糖を食べて消費するアルコール発酵」が同時におこなわれています。そのため一つずつの工程を失敗することなく、順調に進めるため、先人たちが生みだしのが「三段仕込み」。「初添え(はつぞえ)」「踊り(休ませる)」「仲添え」「留添え」という三段階を経ることによって、温度管理がしやすく、雑菌の侵入を防ぎ、そのタイミングで必要な酵母の働きをコントロールしやすくなります。ステンレスやホーローのタンクを使用することが多いですが、江戸時代の酒づくりを復古するため、または味わいに特徴をつけるため、木樽を使用することもあります。

 

上槽(じょうそう)・搾り

自動圧搾機、通称「ヤブタ」
自動圧搾機、通称「ヤブタ」
上槽した後に残った酒粕
上槽した後に残った酒粕

目標とする酒の状態になった「醪」を搾り、日本酒と酒粕に分ける作業です。・槽(ふね)・自動圧搾機・袋搾りと3種類の方法があります。一番多いのは「自動圧搾機」。「袋搾り」は、少しずつ袋に詰め、棒に紐で括り付けて、ぽたぽたと垂れる雫だけを集める方法で、大変手間がかかります。そのため大吟醸や純米大吟醸などの高級酒や鑑評会出品酒などだけに採用するのが、ほとんどです。「雫取り」「雫搾り」「袋吊り」「雫酒」などさまざまな呼び方があります。

 

濾過(ろか)

「ろ過」の目的はいくつかあります。

  • 1つ目:「火落ち菌」などの日本酒の大敵となる一般細菌が瓶内に混入するのを取り除くため。
  • 2つ目:味わいを整えるため。
  • 3つ目:は色を取り除くため。

搾りたての日本酒は、透明ではなく、若草色や黄金色のようなやや黄色みがかっているのが普通です。しかしかつては着色が嫌われて、わざわざ活性炭素を使って、「ろ過」をして、無色透明にする作業が一般的におこなわれていました。この作業をすると透明になり、さらに日本酒の欠点となる味わいも軽減されます。しかし同時に日本酒の旨みも多く除かれてしまいます。そのため近年では活性炭素を使った「ろ過」作業をしない「無濾過」の状態で出荷する酒蔵も増えています。また「ろ過」の選択肢も増えており、風味は残して微生物を除去する細かい目のフィルターやSFフィルターなども存在します。日本酒のろ過のみならず、仕込水、割水のろ過に使用されることもあります。

 

火入れ

プレートヒーターで火入れ作業をする様子。
プレートヒーターで火入れ作業をする様子。

「火入れ」作業は、酒に残った酵素の働きを止め、、「火落ち菌」などの日本酒の大敵となる一般細菌を死滅させるためにおこなう。従来「火入れ」は、搾った後と、出荷前の2回おこなわれるのが一般的でした。近年では「火入れ」をしない「生酒(なまざけ)」での流通も増えましたが、貯蔵時や運送時、または店頭に並べられてから成分変化してしまうリスクを抱えています。そのため瓶詰めして、取り扱いを熟知した酒販店のみへ限定流通し、すぐに売り切る、というスタイルが採られています。また1回だけ「火入れ」する「生貯蔵酒」も増えており、記載がない場合でも1回のみというケースも多くなりました。

 

「火入れ」の方法はいくつかあります。熱湯を張ったタンクに蛇菅を入れて酒を通す「蛇管式」、蒸気やお湯が流れるプレートに酒が通るプレートを接して熱する「プレートヒーター式」、瓶詰めしてから温水のシャワーをかける「パストライザー」、瓶詰めしてから手作業で湯煎してから冷水につけて冷やす「瓶燗火入れ」など、さまざまなやり方があります。いずれも何度の温度で、どのくらいの時間火入れするのか?どのタイミングでするのかは、極めて重要で、酒蔵の知見や技術によるところが大きいのです。

 

瓶詰め

全自動の機械を使い、非接触で衛生状態を保ちながら瓶詰めされる様子
全自動の機械を使い、非接触で衛生状態を保ちながら瓶詰めされる様子

できあがったお酒を瓶に詰める作業です。酒蔵の規模によって全自動の場合と、手動の簡易的な機械を使った手詰めの場合があります。いずれも必ず目視で異物混入がないか確認します。

 

貯蔵

清潔な酒蔵のなかに貯蔵タンクが並ぶ様子(賀茂鶴酒造)
清潔な酒蔵のなかに貯蔵タンクが並ぶ様子(賀茂鶴酒造)

かつて日本酒は、できあがった後に一定期間(およそ半年ほど)貯蔵して、味わいを熟成させ、出荷するのが一般的でした。現在では造ってすぐ出荷し、すぐ飲んでもらう、というスタイルが増えましたが、できたての日本酒はフレッシュでピチピチしている反面荒々しい角が立つ味わいが特徴的です。現在でも計画的に貯蔵をして、出荷される日本酒もたくさんあります。タンクの中に入れて貯蔵する方法と、瓶詰めしてから貯蔵する方法があります。

昔使われていた木樽(丹波杜氏酒造記念館)
昔使われていた木樽(丹波杜氏酒造記念館)

ステンレスやホーローのタンクを使用することが多いですが、江戸時代の酒づくりを復古するため、または香りをつけたり、味わいに複雑性を持たせるため、木樽を使用することもあります。

 

まとめ

 

各工程が簡単に見てもらいました。日本酒づくりはどの工程が少し違っても、まったく違う味わいになります。酒蔵によって酒づくりに対する考え方や目標とする酒の味わいが異なるため、使う機械、酵母、道具、時間や温度など、細かい部分は違いますが、流れはだいたい一緒です。


この記事を書いてくれた日本酒人

関 友美さん

日本の文化や伝統を世界に伝えるライター。日本酒や和食、伝統文化をテーマにした執筆を得意とし、その文章は多くの読者に日本の魅力を伝えています。資格を活かし、日本酒や発酵食品に関する深い知識を持つ関さんは、その専門性を活かして様々なプロジェクトにも携わっています。審査員としての経験から、日本酒の品質や特徴を深く理解し、その魅力を的確に伝える力にも定評のある日本酒界屈指のライターさんです!

【保有資格】

・唎酒師、日本酒品質鑑定士(SSI認定)
・発酵食品ソムリエ
・シードルマスター(シードルマスター協会認定)
【審査員実績】
・MONACO SAKE AWARD 2024
・全国燗酒コンテスト 2024